《転換》力向上のすゝめ

2012年に国家戦略会議「フロンティア分科会」の報告書内で提言された「40歳定年制」は発表当時、そのインパクトから受け入れがたいと反発もあった。しかしここ最近、改めて「40歳定年」ということのメリットを少なくとも冷静に考える素地は整ったかに思われる。いわゆる65歳定年までに、40歳という年齢で、自分の人生の棚卸をし、ビジョンを描きなおし、それを実現するために、これまでの経験の上に必要なスキルを加えて新たなスタートを切る、という考え方に一定数から賛同を得られるようになった。

一方で実際の転職市場はさらにシビアだ。40歳でアクションを起こすのでは時機を逃すといわれているらしい。30代半ばまでに自分の人生をプロデュースすべく、転職を含め様々な経験を重ねていないと市場価値のない人材とみなされる可能性もあるとか・・・。

tobiuo7月に伝耕メンバーは第31回国際心理学会議&日本心理学会第80回大会でキャリアにおける《転換》について発表を行った(この発表に関しては、特定非営利活動法人「楽しく伝える・キャリアをつくるネットワーク」のブログの中で詳細に紹介されている)。我々は《転換》を、Aという条件の中で奏功した要素を未知のBという条件に適応させるための探索行動と,適用を試みる行動の二つを指すと定義し、「異なる経験を重ね、変化に対応できる自分を作り上げる」ための基本の行動としてかねてから注目している。つまり《転換》とは、たとえて言えば、海の中で泳ぐために使った「ひれ」を空中で飛ぶために活用した「トビウオ」の発想と実行のようなものだ。

我が国においては、転職経験をもってキャリア形成をはかってきた人の割合がいまだ限られる中、その知見について確たる内容が蓄積されていない。我々は探索的研究として、自ら環境の「変化」を受け入れる選択をした転職者が「変化」の前後で、何をコンピテンスとして新しい環境に持ち越し、何を捨てて改編したのか、新しい環境で学んだことは何かなどについて、様々な事例や身近なロールモデルを参照し、そのエッセンスをまとめることを試みた。インタビュー対象となった8名の転職経験者の方に共通する「態度(行動に先立つ心構え)」は、「保持すること」と「捨てること」、「新しく得ること」についての逡巡が少なく、それらすべてを資源ととらえ、《転換》力を活かして取捨選択しながら適応していることであった。「異なる経験を重ね、変化に対応できる自分」は変化が激しくとも生き残れる存在となりうるだろう。

現実的な要請として、教育機関も企業も、「変化に対応する」というお題目だけを唱えている場合ではなく、我々が考えるところの変化に対応する発想と行動=《転換》を具体的に育成するスキルプログラムが提供されるべき段階にあると思われる。

この《転換》研究に関しては、知見を社会的資源として広く世の中に還元するというミッションをもち、プログラム開発を念頭に置きつつ、地道に継続するつもりである。

西道広美