音の記憶

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足裏で、「ジャリッ」、と音がした。

きっと「アレ」だ。

二三歩先を行ってから、後ろを振り返った。

やっぱり「アレ」を踏んだのだった。

そう、「アレ」とはクマゼミのおだぶつ。すっかりひしゃげてしまった。

解体の算段に忙しい蟻さんの仕事を減らしたに違いない。

それにしても、

クマゼミのおだぶつを踏んづけたことなど、40数年生きてきて、片手ほどもないはず。

なのになぜ、音だけで即座にそれとわかったのだろう。

かたや、

気合いと共に頭にたたき込んだはずの知識は、ごくごく最近のことですら、忘却の彼方に押しやられているのに。 ああ。

その瞬間、

「ジャリッ」という音は、頭の中で妙に響いて聞こえた。

右の耳と左の耳から入った音が、ちょうど真ん中でシンバルを打つようにあわさって頭蓋骨の中を共鳴し、その瞬間、目の前の風景が凝固した。

そういえば、

アイデアを思いついたときも、目の前の風景が凝固し、右耳と左耳の間が急に開通したように一瞬ジーンとした後、音が妙に大きく響いたり、あるいは聞こえなくなったりする。

今得たばかりの感覚と、昔の感覚記憶との照合の瞬間と、

要素同士がはじめて出会うことによって新たにアイデアが生まれる瞬間に頭の中で起こっていることを、

どちらも刺激が頭の奥深くにしまわれた何かの記憶をひきだし、その刺激について照合とラベルづけを行うまでのプロセスだ、と捉えてみると

とても似ているのかもしれない。

 

それはそうと、

ここ5年ほど、毎朝、ヨガや整体をミックスした自分なりの体操を続けているのだが、

ふしぎなことに、

最近、頭と身体の感覚のつながりをはっきりと感じられるようになった。

はじめたころは、

単に健康とダイエットの効果を期待していただけだった。

継続するということは、期待した力をもたらしてくれるだけでなく、

思ってもみない力をプレゼントしてくれるような気がする。

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